狂愛ゴング
「……あー……まあ、そういうことで」
多分、気付かれた。
新庄にはきっと気付かれただろう。
新庄はそのまま無理矢理彼女を私がいる方向とは逆方向に帰す、そんな足音が聞こえた。
「——……のぞき見が好きな奴だな」
背後からの突然の声には特に驚くことなく、新庄の方を見ることなく、自分の体に響き渡る心臓の音を、息を止めて落ち着かせた。
「別に……あんたがいつも私の近くで問題を起こすだけじゃない」
すうっと大きく息を吐いて、睨み付けるように振り返る。新庄はいつも通りの笑った表情で私を見つめた。
あんなことを……言っておいて、なにもないように私を見るその顔でわかる。
別に深い意味なんてないってことが。
すくっと立ち上がってパンパンとスカートの汚れを落とす。
なんでもない。こんなこと。
なにも気にすることはない。
どうせ、あの女の子を断るためだけの口実だ。
でも……だとすれば。
新庄ならひどいことを言うに違いないのに。なんで……あんなふうに意味深な言い方をして、彼女の告白を断ったのか。
「……私はジュース買いに来ただけよ」
後ろの自販機にやっとお金を入れて、ピッとボタンを押す。同時に新庄の「ふーん」という返事が聞こえてきた。
——どっかいけバカ。
勢いよく落ちてきたジュースを取り出そうとしゃがみ込む私に、新庄の動く気配のない足下が視界に入る。
なんで、傍にいるの。さっさとどっかいけ。用事なんかないでしょ。
下から新庄を一瞥すると、ムカつく笑顔を顔に貼り付けている。
「さっきの全部聞いてたんだろ?」
「……ソレがなに」
ストローを取り出して刺す。
なにかをしながらじゃないと話が出来ない。