狂愛ゴング
「俺、お前のこと好きだよ?」
「——は!?」
思わず顔を上げて、目の前にいる新庄の顔を見た。
新庄は、いつものバカにした顔じゃなくて……ただ笑って私を見てて。
「……え? え? ……え?」
冗談でしょ。
なにを、なにをふざけたことを…?
だって、好きじゃないから一緒にいるだけだって。さっきのだって……相手を断るための、発言でしょ?
きっと新庄のことだ。相手を傷つけるために……。
だけど傷つけるなら……いつものようにもっと私が想像できないような言葉があった、と思う。
わたしがいるから、……断った?
至極当然で、逆に言えばそれ以上に優しい振り方も、ないかもしれない。
……え? あれ? え?
だけど、声が出ない。ただ口を開けて、「え」以外の言葉が口から発することが出来なくて。
そもそも頭の中もぐっちゃぐちゃだ。
「——ぶっは!」
そんな私の顔をみて、笑ったままだった新庄が突然顔を背けて吹き出す。
——……え?
「おま……なにマジにしてんの? は……はは……。ときめいたの? ばかじゃねえの? 好きな訳ね—じゃん」
本当に、死んだらいいのに。
本当に、クソむかつく男。
目の前で大爆笑しながら、だけど常に私を馬鹿にする新庄の目が、とてつもなく憎らしい。
「……惚れんなよ? うっとうしいから」
だれが惚れるか。
ナルシストが。クソナルシスト。こんなに性格が悪い人きっとこの世の中存在しない。
「——っわ!」
ぎゅっと勢いよく紙パックのオレンジジュースを握りしめ、新庄に向けたストローからオレンジジュースが飛び出した。
狙い通りに新庄の顔をオレンジ色に染める。
大好きなオレンジジュース。
大嫌いな新庄。