狂愛ゴング




「おい、ブス」


……朝っぱらから一気にテンションの下がる新庄の声によって私の歩みが止まった。

顔を上げると、廊下で腕を組んで壁にもたれかかって私を睨んでいる。

なんでいるんだ、こんなところに。


「お前なに人にジュースぶっかけて逃げてんだよ。クソか」


クソはお前だよ。何度も言ってるけど。言い飽きたくらいだ。

昨日は、あのまま新庄から逃げ回り、帰りも新庄が来る前にSHRが始まる前に急いで帰った。

新庄が怒るだろうことは容易に想像できた。
昨日泰子から『大変だったんだから!』というメールも来ていたし。

本日の殿は相当ご立腹のようです。

でもさすがにて、私の登校を待って廊下で待ち伏せすぐほど怒っているとは思わなかった。

すれ違ったときに飛び蹴りが飛んでくるとか、会った時に人として生きててすみません! て思わせるくらいに罵倒されるかもしれないという心の準備はしていたのに。

相変わらず私の予想通りには動かない男だ。

どんなけ根に持つ性格なんだ。
心の狭さだけは認めてあげなくもない。

廊下で腕を組んで私を出来る限り見下ろそうとするその視線にすら捕らわれたくなくて、首あたりを見つめながら適当に笑う。


「ぶっさいくな顔してんなよ」

「…………」


ぶっさいくとな。
間に"っ”が入るだけで威力が増す。

反論したいのに、言葉が出ないくらいダメージを受けるこの私の繊細な心よ。

< 105 / 153 >

この作品をシェア

pagetop