狂愛ゴング
「あんたが鬼みたいな形相しているからでしょ」
「……はあ?」
「……おきれいな顔をしてらっしゃるから、とでも言えばいいですかー?」
はははん。
おきれいな顔ですものね。鬼とか言われたらそりゃ怒りますよね、ハイハイすいませんねー。
「お前、バカにしてんの? 俺を? お前が?」
えっらそーに。馬鹿にくらいさせてくれたっていいでしょ! キレイな顔してない訳じゃないんだから!
むうっと睨み付けると、新庄はいつものように鼻で笑うこともなく、私よりもはるかに強い目力で睨み付ける。
会いたくなかった。
そう言えば新庄はどんな暴言を吐くだろう。どんな顔をするだろう。
馬鹿にして笑うかも知れない。そんな言葉を口にしたことを後悔させるほど睨まれるかも知れない。いや、もう殴られるかも知れない。
会いたくない。会いたくなかった。
例えオレンジジュースをぶっかけたことで怒っていようとも。いやむしろだからこそ、とも言える。
1日経てばなにかが変わるような気がしたけどそんなこと……全くなかった。会えばどうしていいのかわからない。その気持がむしろ大きくなっていく。
目をしっかりと合わせられないのは、恐怖からだと、それ以外の感情なんてなにもないと、そう思いたい。
とはいえ……新庄も譲る気はないのだろう。
私の前から1歩も動く気配がない。
さて。どうしようか。今なら土下座くらいしてもいい気がしてきた。
お安いご用だ! 地面に頭擦り付けるくらいどうってことない!
……多分。
無言で睨まれ続ける空間に、通りすがりの生徒達からなんとも言えない視線が突き刺さってくる。
そして、予鈴。
「あ! チャイム! とりあえず、まーほら、授業始まるから。勉強勉強!」
らっきー! ひゃっほう!
と、すき間からするりと抜けるように新庄を通り過ぎようとすると……ガシッと、顔面を掴んで……新庄が塞いだ。