狂愛ゴング

……逃げるか?

いやいやいや、それこそこのつぎに顔を合わせたときにどうなるか……サメの餌になるかもしれない。

どうなってもいいかと思う気持ちもあるけれど……普通に怖いのもある。あのカス、執念深さだけは人一倍だからな。性格の悪さも人一倍だけど……。

5分後くらいから、原因不明の高熱とか出ないかな……。
そしたらいますぐ帰れる。

そんなことしても結局恐怖が明日に持ち越されるだけなんだけど! うわああああああああ助けて! 今すぐ新庄を生まれた星に戻して!


「ちょっとちょっとー!!!」


机に頭をのせて、ぐるぐる回る思考を取りあえず落ち着かせる努力をしている私に、ばあん! とドアを勢いよく開ける音と泰子の声が響いた。

落ち着け。
泰子はちょっと落ち着け。

私よりも落ち着くことが必要だ。

顔を上げずにそう頭の中でそう繰り返すものの、伝わるはずもなく泰子は興奮そのままに私の元に駆け寄ってくる。

ついでに傍に2、3人の女の子も一緒に。

興奮状態の女の子の三乗。耳が潰れるかもしれない。


「ちょっと!聞いてよ澄!」


聞いてるよ。聞きたくなくても。

なにも言わずに頭をちょっと上げて、机だった視界が3人の女の子たちを映し出す。

わたしはというとやる気なさげに顎を机にのせて、体勢はそのまま。


「新庄くんが! 優しいんですけど!」


知りませんけど。っていうか気のせいじゃないんですかね?

その言葉に、眉をひそめるだけだった。

意味がわからない。そんなことあるわけじゃないか。あの男に優しいの「や」の字も当てはまるはずがない。鬼畜の“き”か、ゲスの“ゲ”だ。


お似合いすぎて反吐が出るね!
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