狂愛ゴング
「ほんとだって! さっき見ちゃったんだからー」
なにを見たんだ。
なにも言わないままの私に気にすることなく話は続く。
「廊下で、多分下級生かなー? なんとかくんいますか? って聞いたら! 教えてたんだって!!!」
それだけ聞いたら至って普通で、教えない人なんているわけがない。
だけど奴は……そんなことすら素直にすることなんかない。
にやっと笑って「は?」と一言言って終わるくらいのやつだ。
その程度で優しいと言われるくらいには性格人類最低なんだから。
「……っていうか、嘘とかじゃないの? 嘘言って騙されたのを笑ってるとか」
それならあり得る話だし。
「ちーがーうって! ちゃんとその子教室から声かけたみたいで、本人らしき人と話してたものー!!」
気持ち悪い。
なにか裏があるとしか思えない。裏がない方が怖いんですけど……。
「なんなの急に! どうしちゃったの!?」
「知らないよ、っていうか私に聞かないでよ。知るわけないし、私にとってはカスなんだから」
そんなふうになにかをして貰った記憶なんかコンマ1秒もないわ。そんなことされたら逆に怖いから、されたくないけれど!!
「どーしちゃったんだろー急に! 本当に澄と付き合いだしてから変わったんじゃない?」
「付き合ってないってば!」
付き合っているように一緒にいるようなそんな感じで絡んでいるだけで、実際にはなに一つそんなこともないしそんな気持ちも無い。
私のことであの新庄のなにかが変わるはずもない。
「なに? 機嫌悪いのー?」
「まだ今日も頭痛いの?」
昨日泣いて帰ってきたのを頭痛だと嘘をついてたからか色々好都合に解釈してくれて、私はそのまま「んー」と小さく呟いてまた顔を隠した。