狂愛ゴング

優しいはずがない。
あの男が。

優しいことをするなんて天地がひっくり返ったってない。少なくとも私には。

優しい新庄なんか想像も出来ない。

未だかつて女の子と笑って歩いている姿なんか見たこともない。男の子にだってまれだった。ふざけた笑いは何度も何度も見てきたけれど。それとこれとは別だということくらいわかっている。

——それが今優しいだなんて言われて、はいそうなんですか、なんて思えるはずがない。


「でも、あれくらいの新庄くんなら、まだ付き合えそうだよねー」


ふざけんな。
そんなのあるはずない。


「またもてるかもねー」


冗談じゃない。
これ以上物好きが増えてたまるか。

増えたところでなにも困る訳じゃないけれど……これ以上注目されるのはいや。あることないことで言われるのもいや。

どうせ飽きれば終わるだけの関係じゃないか。めんどくさい。
ただの意地の張り合い。


「あー! もう!」


イライラモヤモヤの気持ちを吐き出すように大声で叫んだ。


「な、なに?」

「なんでもない……」


驚く泰子にそれだけ返事をしてもう一度ふて寝する。
なんだって毎日毎日新庄のことを考えないといけないのか……。


今では毎日新庄に振り回されてばかり。
行動も、心の中にまで。
んて迷惑な男なんだろう。

最低で、鬼畜で、カス。それだけは自信を持って言えるけれど、それ以外は全く分からない。

付き合っている理由も、私をおちょくる理由も、楽しいだけだとかストレス発散だとか、それだけのはずなのに。

1ヶ月経ってもあいつは飽きる気配がない。それどころか、それが日常になりつつある。

それを新庄はどう思っているんだろう。

……なにも考えてない、だろうな。私だけがこんなことを考えてるんだ。


なんでこんなことになってしまったんだろう。
なにも気にしないで、見ないふりして、いないかのように、ただ私は友達と笑っていたらよかったのに。


——そんな数日前の自分のことも、今ではなにも思い出せない。
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