狂愛ゴング
しばらくその手をじっと見つめて私は……震える体を必死で抑え込みながら……左手で、ぎゅと掴んだ。
馬鹿なことをしている。そんなことは分かってる。そんなことしたってなにも変わるはずがないことくらいは充分、分かってる。
そんなの承知。
それでも手を出した。
意地っ張りなんて言葉じゃ説明出来ないほどに、自分が狂っているのが、わかる。
なにも言わないまま進む新庄の向かう先は、ラブホテル街。
一歩進む度に脚に重みが増す。
細い路地裏に、不釣り合いな建物と看板。
引きずられるように歩いていたものの、どんどん身体が重くなっていって、どんどん動けなくなってゆく。
限界に達して足を止めたのは、新庄が入ろうとしたラブホテルの入口だった。
「なに?」
言葉が出ない。
新庄が私を見て声をかけてくるけれど……なにも言えないし動けない。
怖い?
そんなんじゃない。
セックスがなにをするかなんて、したことがない私だってそれなりに知っている。そんなことで今更怖がったりしない。
初めてだから、好きな人としたい?
そんなんじゃないんだ。そんなんじゃない。違う違う。
言葉はなにも出てこないし、動けと体に指令を送ることも出来なくて、ただ突っ立っていた。地面に足がめり込んでしまったみたいに、動けない。
そんな私に新庄は無理に引くこともなく私を見つめる。
心臓だけがバクバクと激しく動いているのに、指先ひとつも動けない。
どうしていいのかわからなくて、頭が真っ白になっていく。
「ぶは!」
……え?
空気を壊すかのように聞こえた新庄の笑い声に、なにかがはじけたように体が動き新庄を見上げた。