狂愛ゴング
「負けを認めるなら断っても別にいいけど? “私よりも俺の方が人間として価値ある人物でした、私はゴミです、カスです、ブタです許してください”って言えば、許してやるよ」
「——っだぁぁぁぁっれが言うが!」
ふざけんなよ! この腐れ外道が!
「ああ、上等じゃない! 付き合ってやるよ! そんなもの簡単だしね! あんたの方から“澄様申し訳ありません、俺には澄様の相手には力不足でしたゴミクズですチリカスですすいません、別れてください“って言わせてやる!!」
「へえー……」
はい、目が座りましたー。
新庄の目がすうっと光を遮断するような目つきに変わる。
けれど今更引けるか! ここまで来たらやってやろうじゃねえか!
奥歯をきつく噛んで、新庄を睨み付ける。新庄は私を見下ろす。
「取りあえず……絶対付き合ってないし付き合ってもそんな関係じゃないことだけは……わかったな」
「……こいつらの付き合うってなんだ?」
新庄の回りにいた友達らしき男の子が呆れ気味になにか言っていた。
「黙れ」
そんな言葉は新庄の睨みと低い声にぴたりと止んで、男の子たちは肩をすくめて笑う。
くそ。お前ら! もっと言えよ。なんか間違ってるって。友達だろうが!
「じゃ、よろしく」
だけどもう私には引けない。そんな屈辱的なこと出来ない。女に二言はない。
こんな外道に負けてたまるか。
差し出された手に、少し警戒しながら私も同じように差し出した。
「——っい!!」
出した瞬間に骨まで折れるんじゃないかと思う程の力で握られる。
こいつ! なんなの。女相手に本気で容赦しねえ! 声も出ねえじゃねえかああああ!!!
ぎりぎりと痛みに耐えながら顔を引きつらしながら笑う私に、同じように新庄も怒りを混ぜた笑顔を見せた。
「こいつら、恋人同士って言う意味知ってんのか……?」
教室の隅でそんな声が微かに耳に入ったけれど、私たちはお互いに力を込めて手を握りあい、目をそらさないままいびつな笑顔を作っていた。
——負けません、勝つまでは。
戦いのゴングは、頭突きによって鳴らされた。