狂愛ゴング


あ、危なかった……。

ほーっと息を吐き出して、小さくなっていく女の子を見つめる。

多分、泣いている。ちゃんと見えなかったけど……かわいい感じの女の子だった。知らない子だから先輩か後輩かもしれない。

……いや、でもわかんないわ。
悪いけど泣く気持ちなんかこれっぽっちもわからない。

あんな男と付き合いたいと思う気持ちがそもそも分かわないもの。わかりたくもない、と思っている。

ああまでされて泣いて逃げるなんて悔しくないのかな。私だったらとりあえず蹴り飛ばす。怖いから蹴り飛ばしてから逃げる。速攻で逃げる。


まあ、それはいいとして。取りあえず。


視線を元に戻して新庄の足元を見た。

早くあいつもどっかに行ってくれないかな。プリント取りたいんだけど。早くしないと友達みんな帰っちゃうじゃないー! いつまでそこで突っ立ってるのよ。

はあっとため息をついてがくりと項垂れると同時に、ジャリッと動く音が聞こえて、よし、いけ! と心で呟く。

が。


「なに、してんの?」


足音は私の背中で止まり、冷たい声が私に向かって風のように私にやってきて、私の体温を下げる。


「……いえ、ちょっと……捜し物でございます」

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