狂愛ゴング




新庄は、有名な男だ。同じ学校で同じ学年。でも同じクラスになったことはない。

それでも、1年の時からその名前を何度も耳にして、その姿を何度も目にしてきた。
というのも、誰もが一瞬目を奪われるほどの容姿だからだ。

切れ長の奥二重に、真っ黒な瞳。
ストレートの黒髪は少し長めだけれど、見ていて邪魔だと思う程でもない。すらりと伸びた手足。身長は170センチ後半だろう。

人を簡単には寄せ付けないようなオーラを感じる人。

……ただし、有名な理由はそれだけではない。むしろそれはおまけのようなものだ。


「澄、聞いた? また女の子が新庄くんに告白して泣かされたらしいよ」

「またあ? ほんっと、みんな懲りないね」


友人の泰子(やすこ)の言葉に怪訝な顔をして呟いた。
この話、今月で2回目のような気がする。情報通でもない泰子も知っているくらい、すぐさまウワサになる男。おそらく今回も人目につくところで泣かせたのだろう。


「ねー。なーんでそうなるって分かってて告白するんだろうねえ」


誰もがそう言う。なんであんな男に告白をするのかって。あんな男となんで付き合おうと思うのか。

——なのに、告白する人がいなくならないなんて世の中狂ってるとしか考えられない。



新庄は、いわゆるSと呼ばれる男だ。


Sというくくりでも甘っちょろい気もする。鬼畜。外道。カス。敵。俺様なんてかわいいもんでもない。ドSでも可愛すぎる。獣? んーなにがいいかなあ。わからないけど。

取りあえずそれほどまでにひどい男だってことで、有名なのだ。

同じ中学だった人たちから、彼の今までの悪事は広められた。
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