狂愛ゴング
中学時代から一緒に過ごしていた泰子も、それをわかっていて笑っているのだろう。おそらく私に新庄の情報を与えてくるのも、面白がっていると思う。
「関わったら面白いのに」
「やめて、マジでやめて! 私は変わったんだから……!」
「以前の澄、私大好きよ」
そんな希有なひとは泰子くらいなものだ。
そう言ってくれるのは嬉しいけれど、だからって……。
「あ」
話しの途中で、泰子が廊下の方を見て口にした。
釣られて私も視線を動かせば、そこには私たちの話にあがっていた彼、新庄が歩いている姿が見える。
男友達らしき人と、なにか話しながら歩いている。
……確かに、あの姿だけ見ればかっこいい。私だって一瞬見とれてしまうくらいには、かっこいい。
ただ、今の私には毛虫と同じようにしか見えないんだけどね。
廊下を歩くだけで誰もが彼の存在に気づき、全てを彼に奪われる。生まれながらのなにかオーラでもあるのかもしれない。
鬼畜とか言うオーラじゃねえの、と言いたいところだけれど。
見た目に関して言えば文句の付け所もないほど格好いいことは私だって分かっている。だからこそ、思う。
なんてもったいない人なんだろう、と。
「あんな彼氏欲しい気持ちはわからないでもないけどねー。自分にだけは優しいかも知れないとか、そんなの想像したら悶える」
「付き合ったら優しい一面もあるって言うしねー、やっぱり、憧れるよね」
そばにいたクラスメイトの女の子が口にする。
脳みそ腐ってんじゃないの?
そんなことあるわけないって知ってるでしょ。
誰ひとりとしてまともな最後を迎えた人はいないんだよ?
よくそんなお花畑みたいな脳天気な思考ができるもんだ。
眉をひそめて再び視線を彼に戻した。
顔がいいからって、そこまで思えるものだろうか。中身はゴミクズ以下の人間なのに。
あんな男に本気で惚れるなんて、狂ってるとしか思えない私のほうがおかしいのだろうか。
ま、今後も一切関係のない人間だから、どーでもいいけど。