狂愛ゴング
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と、今日の昼に思ったばかりだというのに。
なぜ、今、私の後ろにいるのだろうか……。
ぴりぴりとした空気を感じて、振り返れない……。
蛇に睨まれたカエルってこんな気分なのかしら。いや、実際今私が睨まれているのは背中なんだけど。
振り返ったら石にされるかもしれない。
「こっちむけば?」
声が……声が怖いんですけど。
こいつの声をまともに聞くのは初めてだけれど、この明るい声が奴の本心ではないということはなんとなくわかる。
多分、いや絶対、こいつの目は笑っていない。
頼むからこのまま私のことを置物だと思ってスルーしてくれませんかね。
「向けよ」
——はい。
一気に低くなった声に、間髪入れずにくるっと振り返った。
人間って、やばいと思ったときは考えるよりも体が先に動くものだ。
視界には新庄の長い脚。
そこからゆっくり視界を上げていくと、私を見下ろす視線とぶつかった。
やっぱり新庄に間違いない。わかってたけれども!
絶対に関わりを持ちたくないと思っていたというのに。話を聞いても、クラスメイトがこいつに泣かされても、無関心でいようと必死に頑張っていたっていうのに。
いや、まだなんとかなるはずだ。
今この瞬間をやり過ごせば、なんとかなるはずだ。
コンマ数秒の間にそんなことを考えて、自分に言い聞かせた。
“大丈夫だ、大丈夫だ”“私は、変わったのだ”“私は変わるんだ”と。
「え、と。プリントを、ですね」
しどろもどろにそう告げると、新庄は足元のプリントに気がついてひょいと拾い上げる。そして再び私の目の前に戻ってきて、しゃがんだ。