狂愛ゴング


「最低だね」

「だろ?」


なに笑ってるんだか。こんなこと言われても笑うなんて……変な奴。


「——で?」

「は?」


突然の呼びかけに、自分の勝手な妄想を口に出していたのかと心臓が跳ねる。

いや口にした?
してないよね?


「映画行くんだろうが」

「……行くの?」

「……行かねえ」


どっちだよ。


「暇だから行ってもいいけど面白くなかったらお金返せよ」


それは配給元におっしゃって下さい。私の責任ではございません。


でも、もしかして本当に行くつもりなのかな。


「なんだよ」


後ろからじっと見つめていただけなのに、私の視線を感じたのか少し不機嫌そうな顔をしながら新庄が振り向いて怪訝な顔を向けてそう言った。


「別に」


なぜだか思わず自然にふっと笑いが溢れると、ばしっと顔面に手がやってきて私の顔を包み込む。

少し私が優位に立っている感じが気に入らないのか。

もごもごと“手を離せ”と伝えると、案外あっさりと手が離れて、新庄はバカにした様に笑った。

こいつもなかなかの負けず嫌いだと思う。



なんだかんだ……私たちはケンカはしている。
毎日こんな感じ。イライラしっぱなしだ。

それでも……前ほどいやだと思っていない自分がいる。


——いやだな。


暴言も乱暴な手も大嫌いなのには違いない。むかつくし苛立つし、なにを言っても新庄のほうが一枚上手のような気持ちにさせられる。

大嫌いだ。それはずっと変わらないのに。

前ほどいやではなくなっている自分が1番いやだ。

正直どっちでもよかったし時間がもったいないから提案しただけなんだけど。

……やっぱり、新庄も行きたかったんじゃない。

素直に言えばいいのに。ついでに土下座でもして頼んでくれたら一緒に行ってあげるのに。
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