狂愛ゴング
ジュースジュース。
「——好きです」
微かに聞こえる声に、お金を入れようとした手がぴたりと止まった。
近くで誰かが告白の真っ最中らしい。
今ここでジュース買ったら雰囲気ぶち壊しじゃね? 静かに買ったって、音が鳴るだろうし……。
私のせいで告白失敗とかなるの!? え? 迷惑! 見知らぬ女の子にこれ以上嫌われたくないんですが。
目の前には欲しかったジュースがあるって言うのに……ぎぎぎぎ。
それでも女の子が告白してるんならば邪魔するわけにも……いかないか。
はあっと諦めのため息を吐きだして、声の主をコソコソと探すと、丁度自販機の裏の、草陰に人影が見えた。
仕方なく自販機の隣に腰を下ろして、彼らがどこかに行くのを待つ。
……なんだかいやな思い出がよぎるな……この状況。
「悪いけど……」
はいきた。
やっぱりか。
女の子の告白に返事をするその声は、毎日イヤと言うほど聞かされる声。
「新庄くん……なんで?」
クソ新庄。
もう最悪だ。こんなのばっかりなんて。
なんだってこんな状況にばっかり出くわしてしまうんだか。
ろくなことにならないに決まってる。オレンジジュースは欲しいけれど、なんだかいやな予感しかしない。お昼休みは諦めて、次の休み時間に買いにこよう。
そう思って、こそっと音を出さないようにしぶしぶ帰ろうと進行方向を変える。
に、しても。
新庄の性格を知っているのに告白する女の子がいなくならないのってこの学校の七不思議に認定できると思う。
告白する方もばっかじゃないの?
……どうせ泣きを見るだけなのに。
誰も好きにならない男なのに。誰にも好きになられたくない男なのに。