あたしの仮旦那は兄貴の親友
仕事を終えて帰ってきたあいつが
ソファに鞄を置くと
「木下さんから聞いたよ」
と突然、口を開いた

びくっと肩を震わせたあたしは
夕食を作っている手を止めて
振り返った

花音から何を聞いたのか

だいたいの察しはついている

婚姻届のこと

それを花音があいつに話してしまったのだ

あたしがまだ出してないと
あいつに知られてしまったのだ

あたしはごくっと唾を飲み込んで
少しむすっとしているあいつの顔を真っ直ぐに見つめた

「木下さんは悪くないからね
僕たちのことを思って話してくれたんだ」

「な、なんのこと?」

「わかってるでしょ?
僕が言いたいことを…果恋、出して」

「何を?」

「知らないふりはしないでくれ
婚姻届を出してくれと僕は言っているんだ」

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