あたしの仮旦那は兄貴の親友
「どうしてそんなことを言える?
なぜ…怒らない?」

「怒る? なんで怒る必要があるの?」

あたしは瞼を固く閉じると
「はあ」と深い息を吐き出した

「『んだよ』って舌打ちして
妊娠なんかしてんじゃねえって言われたほうが
まだマシだってこと

中途半端に
ニコニコされて心の内が見えないのが
一番苦しんだよ
あたしを好きでもないのに
産んで欲しいなんて言うな」

あたしの大声に
あいつの腕が緩んだ

「散々、『ごめん』って謝ってたくせに
一番、あの夜を無かったことにしたいあんたなのに
あたしの気持ちなんてわからない!」

あたしはあいつの胸を押すと
自室に飛び込んでドアを閉めた

ついでに鍵も閉める

入ってくるな

誰も
あたしの心の中に入ってくるなよ

あたしの脳裏では
ベッドを共にした翌朝のあいつの謝る声が
何度も何度もコダマしていた


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