Air ~君と一緒に~

~回想~ 16歳の春

あれは9年前の春。
2年生になり、教室が2階から3階になった。
あたりを見回すと、半分くらいは知らない顔だった。
1年間同じ学校に通っていても、意外と見たことない奴は多いものだ。
3年ではクラス替えはなかったはずだから、こいつらと2年間過ごすことになる。
たしかそんなことを考えていた。

始業式のあとのホームルーム。
最初に行われたのが席替えと自己紹介。
一応ちゃんと聞いていたつもりだが、3分の1も覚えちゃいない。
きっとみんなもそうだろう。

「・・・○○大学を志望しています。よろしくお願いします。」

そのときから気になっていた、というわけではない。
あたり障り無い自己紹介のなかで、たまたま考えていた志望校が一緒だった。
だから覚えていた。
それくらいの印象だった。

席も近くなかったし、話す機会もないまま1ヶ月が過ぎようとしていた頃。
部活を終えて教室に戻ると彼女がいた。
帰り支度をしているようだ。
教室に入った僕に気づくと
「あ、部活いま終わったの?大変だね。」
と、声をかけてきた。
話したことが無かったので僕は少し驚いたが、うん、と頷き返事をした。
「水野さんもいま帰り?」
「私の名前覚えてくれてるんだ。嬉しいな。」
そう言って少し微笑んだ。

あ、ちょっと可愛いな。
そう思いながら、
「うん。志望校が同じだったから。」
と言うと、
「でしょ。だから声かけようとおもってたんだけど、他の男の子がいる前だと恥ずかしくて。」
と、やはり微笑みながら彼女は言った。
確かに彼女がクラスの男連中と話しているのは見たことが無い。
どちらかと言うと、そんなにとっつき易そうなタイプには見えないかもしれない。
こうして微笑んでいると、普段とは別人のようだ。

「ねえ、アドレス教えてもらってもいい?」
「え?あ、うん。」
思わぬ申し出にやはり少し驚いた。

「勉強とかで聞きたいことあったら、メールさせてもらうね。じゃあまた明日。」
アドレスを交換すると、彼女はそういって教室を出て行った。
「ちょっと・・・いいかも。」
恋と呼ぶにはまだ早い、ちょっと気になる人。
こんなに好きになるとは思っていなかった、9年前の春のこと。


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