銭コ乗せ
「こいつを返して欲しいんなら、すぐに返すよ。
ボスの物を勝手に使って、すまなかった。」

「でも、こっちの一万円は返さないぜ。何しろこれは、俺のもんだからな。」

そう言って、俺は袋をまた見つめた。

「こうやって、金がきちんと入るかどうか、そこもまた難関だったぜ。練習したかいがあった。昨日は見張りを煙に巻くのに、あちこち動き回り、間髪入れずにビジネスホテルに飛び込んで、カーテン閉めてそれから…紙幣掴みに必死だった。家には何か仕掛けられててもおかしくなかったからな。いきなり部屋に入り込んできたら、もうどうしようもなかったが、それまでそんな乱暴なことはなかったので一応の安心はあった。それでも常に、ビクビクしてたもんだ。」


周りの手下達は唖然とし、その手に持たれた拳銃は、とっくに下を向いていた。しかし、ボスだけは冷静な顔をして、ただひたすら沈黙を守っていた。


「ともかく…俺は任務を遂行したはずだっ!布袋の中味を、きっちり一万円にしたっ!きちんと中の小銭を使ってだ!!お願いだ!ボスっ!合格と言ってくれ!!」

俺は割れんばかりの声をあげて、ボスにすがった。
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