銭コ乗せ
―ピンポーン―

「はい、どちら様?」

インターホン越しに気品の良さそうな声を聞いた。

「夜分遅くにすみません。実は、旦那様に大事なお話しがございまして。」

これまでの失敗を踏まえて、俺の演技も幾分上達していた。

「少々お待ちください。あなた!あなたぁー!」

―ガチャ―

数秒待つといきなり門の鍵が開いた。そしてそこにはこの家の主であろう、恰幅のいい男が立っていた。

―しめたっ!―

まさか、家の主が直々に出て来るとは。不用心にもほどがあるぜ。

「はて?…以前お会いしたことが御座いましたかな?」

主は首を傾げていた。

「いえ…。わたくし、骨董屋のものなのですが、本日は旦那様の兼ねてより所望なされていた品が先程入荷致しましたので、夜分大変失礼とは思いましたが、是非とも御覧頂きたく、つい足を運んでしまいました。」
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