銭コ乗せ
「普段は、何をなさっているのですか?」

すっかり俺に気を許したおっさんが訪ねてきた。

「別に何も。何もしてなかったさ。…最近ちょっと手ぇだしてみたんだがな。」

俺は天井を意味もなく見上げると、ここ数日を振り返った。

「それでも何も…何もしちゃあいなかった。出し抜かれちゃあ腹立てて、周りに当たり散らすばかりでよ。甘々の甘ちゃんさ。ホントに…バカだぜ。」

しばらく沈黙が続いた。おっさんはじっと前を見つめてる。

「そんなことないですよ。」

「あっ?」

「私を助けてくれたあなたは、バカなんかじゃないですよ。そんなことは、ありません。」

そう言いながら前を見続けるおっさんの横顔が、


俺には霞んで見えた。
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