銭コ乗せ
また朝がやってきた。

まさか、再び朝を迎えれるとは。寒さでコチコチに固った体を、どうにかして起こすと、僕はまだ、確かに生きていることを認識した。

体が全然動かない。

腹もものすごく減った。

とりあえず僕は歩くことにした。

まだ未練があるのか、足がおのずと昨日の現場に向いた。

現場につくと、嫌でも昨日の光景が思い出された。しかし、なぜか不思議と怒りは沸いてこなかった。

辺りをキョロキョロすると、ホームレスを見付けた。あろうことか僕に声をかけてきた、あの老人だ。路上に座り込んで、下ばかり見つめてる。

僕はその老人を凝視しながらも、その場を通りすぎようとした。しかし、ふいに老人が顔上げたため、

目が合ってしまった。

一瞬、相手は逃げる素振りをみせたが、僕はそれを無視し、道に沿って足を進めた。

老人の視線が背中で感じとれる。


―ポフッ―

ふいに何かが、背中に当たった。振り返ってみると、あんパンが地べたに落ちていた。すぐさま僕は老人を見つめた。しかし、老人は頑なに下を見続けるだけだった。

僕は首を傾げ、あんパンを拾うとその場を歩き去った。
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