銭コ乗せ
「部下の報告を聞く限りでは…」

重みのある声が、館内に響く。

「お前はまだ一万に届いていないと思うんだが。出来たのか?」

そう言ってボスの眼が、俺の方に向いた。

ジロリ。


やべぇ…視線一つでションベンちびりそうだ。

試験の開始前と同じように、俺とボスはテーブルを挟んで向かい合っていた。周りもまた、試験の開始前と同じ、ボスの手下ギャラリー。


―グッ、ギリギリ―

バカ、ここまで来てビビっても意味なんかねぇ。ビビったら、

それこそ何もせずに負けだ。

口を閉じたまま、歯を目一杯食いしばると、俺は覚悟を決めた。

「見てわかる通り、この中味は一万円じゃありません。」

手にとった布袋は、中味が小銭ではとても有り得ない形状をしている。俺は、それをボスによく見えるよう高く掲げた。

「なっ…」

「ただし!」

間髪入れず、俺はボスに被せた。

ここでボスに会話の主導権を握られるのは、非常に危険だ。
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