雨粒ドロップ



 ◇







「それにしても…

今日は本当に平和でしたねぇ」







夕陽の照らす部屋で優雅に紅茶を飲む2人の姿。



「…まぁ、今朝のあの騒ぎを除けばねぇ…」

珱魅と銀城 縁である。

「珱魅様…先ほどはどうしてあんなに冷たい態度を?」


銀城は珱魅のティーカップに紅茶を注いでいる手を止めて静かにたずねた。


そしてそれを聞いた珱魅はぽつりと、か細い声で言う。


「…例えあの人と同じであっても、愛璃は愛璃だ。
期待したってまた、辛い思いをするだけだろう?
それなら…最初からかかわらないほうがいい」


少し目を伏せると、注いでもらった紅茶を啜る。


窓から差し込む夕陽の光が、ティーカップの中の紅茶と混じる。
同じ色をしていても、完全に混ざり合えないままゆらゆらとゆれる。



静寂な部屋の中に差し込む黄昏色は、心に深く沁みる様。



「…それは…」



リーンゴーン…

銀城が何か言おうとした瞬間、玄関のチャイムが鳴り響いた。




「…来たね。全く。もう来ないと言っていたのに。」



珱魅は壁に掛けてあった上着を羽織る。


「…珱魅様…」

珱魅がドアに手をかける。肩越しに銀城の声を聞く。

「…心配しなくてもいい。僕はそんなに弱い人間じゃ、無いからね。」


珱魅は振り向かずにそう言うと、玄関へと下りて行った。






「…人間、か。」

銀城はぽつりと呟いた。
玄関からは、愛璃の他に聞きなれた男の声がする。


銀城はふぅっとため息をつき、静かにテーブルのティーセットを片付け初めた。
< 52 / 64 >

この作品をシェア

pagetop