雨粒ドロップ
「…まぁ、こっちも商売だからね。報酬はしっかり頂くよ?」
にんまりと妖しく笑う珱魅の後ろに何だか黒いものが見えた気がするが、
…まぁ、見なかったことにしておこう。

キィー と音を立てて大きな扉を開ける。
「…まぁ、君たちの事だし、そんな高価なものは期待してないけどねっ」

入りな、と言う珱魅に続いて愛璃と脩人も洋館の扉の中へと入った。

パタン、と思ったよりも静かな音を立てて閉まった扉に夕陽の光を遮られる。しかしその代わりにアンティークなシャンデリアや、美しいステンドグラスの窓から、暖かく、でも外の夕陽とはまた違う控えめで暖かな光が射してきた。

吹き抜けになっている天井。階段の脇においてある良く分からない鳥の像。
観葉植物や綺麗な壁と床…
ものすごく広いはずなのに、見える限りでは埃一つ落ちていない。
それがまたこの洋館の美しさを引き出しているのかも知れない。

「…すっげぇー」

愛璃は思わずそう呟いていた。
今朝一度来たはずなのだが、そのときはこんなにゆっくりと見渡すことが出来なかった。

「お前ずるいぞー。こんな立派なところに住みやがってー!
…ん?ところで銀城は?」

脩人が言った丁度そのとき、奥から見覚えのある背の高いメガネの男が現れた。

「脩人、愛璃さん、ようこそ。皓月探偵事務所へ」
「お、銀城さん!」

柔らかい笑顔を浮かべる彼。そこに立っていたのは銀城縁だった。

(やっぱ絶対珱魅なんかより銀城さんのほうが探偵っぽい…。)
愛璃は脩人の隣のまだ幼い珱魅と、背が高く大人びた雰囲気の銀城を見比べて、密かにそんなことを考えていた。

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