桜の季節
私は、ブランコから、いきなり立って言ってやった。
「何も……何も知らないくせにっ!」
回りが暗いのと、自分の涙で、相手の顔が見えない。
「うん……知らないよ…。けどさ…、お前の事ぐらいは知ってるよ…。」
涙を通して見えるその人は、私に近付いて、ぎゅっと抱きしめた。
「……………茜…。」
嘘………、
嘘でしょ?
この香りも
私の名を呼ぶ声も
「…っ……直樹っ……。」
私は、直樹のシャツを両手で、ぎゅっ、と握る。
それに気付いた直樹は、抱きしめる力を強くする。
直樹が目の前にいるなんて………。
嘘みたいだよ……………。