ケルベロ
プロローグ
この街は、異常発生した生命体によって汚染されつつあった。だが、侵略しようとする生命体だけでは決してなかった。もちろん侵略を目論む生命体も数多くいるのは確かである。
それとは別に、人間同士の争いも絶えなかった。
日々、組同士の抗争やリンチ、いじめ……その数は手にも負えない数である。
夜の繁華街、ここにも被害者が――――
客引きや夜遊びする女性を駐車場に停めたワゴン車の車内から男性3人がじーっと獲物を見る目つきで見つめていた。
「違うなァ、あの子じゃない」
「武さん、あの子じゃないっスか」
武と呼ばれるリーダー格の男性は目を細め、指を差した方向を見つめた。その先には、物思いにふける、美女がいた。その瞬間、男の目つきが鋭くなり、フッと微笑んだ。
「あァ、アイツだ。行くぞ」
男は、ドライバー男性を車内に残し、ナンパをするような感覚で静かに女性に忍び寄った。そして、ゆっくりと女性の肩に手を添えた。
「元気だったか、裏切り者のミカさんよぉ」
「た、武!! ……放してッ!!」
ミカは武の手を払い、人ごみの中に消えた。
「さ、捜せ!! アイツだけは生かしてはいけない」
「ハイッ!!」
チンピラ風の男性は、駐車場に引き返し、ドライバーに状況を伝えるとすぐさま後を追った。