ケルベロ
人ごみを抜けたミカは、息を切らして、ひたすら走った。
出来るだけ遠くへ――――
「危ない!!」
「えっ!?」
ミカは、通行人の叫ぶ声に気付いた。彼女は信号の点滅に気付かず、横断歩道を飛び出していたのである。
すでに、車が彼女のわずか30㎝辺りまで来て、止まるに止まれない状況だった。その運転手は、まぎれもない武だった。その顔は、殺意に満ち、歪んでいた。彼女は死を悟った。走馬灯が駆け巡ったであろう。まだやりたいことがあったはずだ。
ミカは、体が浮き上がる妙な感覚を覚えた。それと、動物の〝唸り声〟が耳元でかすかに聞こえた。
ミカは、気付くと反対側に横たわっていた。
武は、
「ミカァ、戻ってくるなら歓迎してやろう。だが、歯向かうなら、葬るのみ」
「あんたの狙いは、別でしょ!! これがなかったらあんたらなんか……」
ミカは、カバンから何かを漁るそぶりを見せた。