初恋の向こう側

『そのまま入って』とは言われたけど、なんとなく悪いことをしてる気分になる。他人の家に黙って入るというのは。


「ヒロ?」


居間へ入ると、なんともいい匂いが漂っていた。

そこにヒロの姿はなく、でも奥の方から音がする。

この匂いもそっちから流れてきているようだ。

台所へ顔を出すと、気づいたヒロと目が合った。


「おはよ」

「おはよ。何してんの?」

「料理! 見ればわかるでしょ?」


ヒロは慣れた手付きで長葱を刻んでから、コンロの上のフライパンを揺すって、器の中の調味料を混ぜ合わせている。

手際がいいってこういうことをいうんだな、とちょっと関心。


「ここで見ててもいい?」

「勝手にどうぞ」


こっちを見ないままヒロはそう言って、作業を続けた。


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