初恋の向こう側

十五分程待っていると、ヒロがお盆を持って現れた。

ソファに腰かけていた俺の前に置かれたのは、おにぎりと味噌汁、玉子焼きに小鉢に入った漬物。


「どうぞ」


横に突っ立ったままのヒロが、ぶっきらぼうに言った。


「いいの?」

「もう片付けちゃたから、あり合わせしかないけど」


怒ったようにそう言って、ヒロはまた奥の台所へ消えた。


次々と口の中へ放りこむように平らげたとき、ペットボトルのお茶が差し出された。


「サンキュッ!」


グビグビと飲みほしてから尋ねる。


「でもさ、何でこんなに料理ができるようになったの?」

「こんなになんて大げさね。大したもの出してないのに」


でもさ、味噌汁はしっかり出汁がとれてて、玉子焼きは売り物みたいに綺麗で味も最高だし、浅漬けだって自分で漬けたやつだろ?

手の込んだ不味い料理より数億倍いいよ。


「それにね、あたしの場合なりたくてできるようになったわけじゃないよ。
梓真ならわかるでしょ? 家庭環境のせい」


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