初恋の向こう側
お次はバイトだ。
店の前に立ち軽く息を整えてから、意を決し扉を開けた。
背の高い棚の向こうに彼女が座っているはず。
もう一度、深呼吸して歩を進めた。
「おはようございまーす……って、あれ?」
そこに座っていたのは、哉子さんではなく中森さん。
「またガッカリしないでよー!」
ってヘタレ顔で言われたけど、今日の場合はガッカリじゃなくて、むしろ哉子さんじゃなくてほっとしたんだ。
「また頼まれたんですか?」
尋ねると、中森さんは驚くことを口にした。
「そうじゃないんだ。
矢吹さん、辞めたんだって」
「え……バイトをですか? いつ?」
「今朝だって。開店前に来て『急ですみませんが』って店長に言ったみたい」
そんな、急に?
「昨日は来たんですよね?」
「うん来たけどー。
……それがさ大変だったんだよね」