初恋の向こう側
* * *
夏休みも今日でおしまいだ。
哉子さんは結局、あのまま本当に店を辞めてしまった。
それまでは、一日置きに店に来ていた小暮さんだけど、あれからパッタリと姿を見せなくなった。
中森さんの話だと、三日前に小暮さんの奥さんがまた店に来たらしく。
でも今回は騒ぎ立てもせず、ただ静かに訊かれたという。
『主人が来ませんでしたか?』って。
それから『あの女性は何処へ引っ越したのですか?』とも。
中森さんが、駆け落ちしたのかな? って楽しげに詮索してたけど、真実はわからない。
哉子さんと入れ替わりで新しくバイトに加わったのは、中森さんの大学の友達。
哉子さんよりもずーっとこの店に合っているオタクだ。
大きな欠伸を漏らした俺は、空に向かって思いっきり伸びをした。
高校生活、最初の夏が終わろうとしていた。