初恋の向こう側
「ねぇ アズマ、お隣って六組の椎名さんのお宅でしょ?」
不意に愛莉が言った。
「綺麗な娘だよね? うちのクラスにもファンがいるよ」
「……ヒロのファンねー」
多分そいつは性格を知らないか、知っているならドMだな。
そんなことを思っていたら、必死にノートを写していたオサも訊いてきた。
「梓真ってさ、椎名のこと“ヒロ”って呼ぶけど下の名前ってなんだっけ?」
「ん? …茉紘」
「マヒロでヒロ? ふ~ん」
「なんかそういう所が、幼なじみっぽいわね」
ヒロって呼ぶのは、知ってる限り俺だけだと思う。
まだ五才だった当時、マヒロの“マヒ”の部分が上手く発音できなくて、それで“ヒロ”って呼ぶようになったんだ。