初恋の向こう側

別にリピートして欲しかったんじゃない。いきなり “セックス” なんて口走った理由を訊きたかっただけなのに。

おかげでワケもなく……いや、ワケはなくないんだけど、なんだか顔が熱い。

俺とヒロの間で交わされる会話の中に、そういう類の単語が出てくるなんて……なんつーか想定外っていうの?

しかも、さっきのオバさんがこっちの様子を盗み見ていて、その視線がかなり痛いんだけど……。


湧き出た変な汗を拭おうとテーブルの上のペーパーナプキンに手を伸ばしかけた、その時。

店に入ってきた連中の一人を見て 「あ」 と思わず声が出た。

俺の反応に気づいたヒロが振り返る。


「どうしたの?」

「ん? いや、なんでもない……」


ヒロの後ろにはパーテーション代わりの低い壁があって、そこは死角になるようだ。


「さっき、そっちを見てたじゃない?」

「だから、なんでもないって」


だけど間もなく、店の雰囲気に相応しくないバカでかい声が流れてきたんだ。


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