初恋の向こう側
「せっかく来たんだから飲めよ?」
促すと、黙って頷いたヒロがカップに口をつけた。
少しして席を立った連中の中に成沢の姿はなく、俺達のカップが空になる頃、女が一人で入ってきて壁の向こう側へ消えた。
ゼブラ柄のショートコートに真っ赤なミニスカート。
メイクも髪型も相当派手な女だ。
「リュウジ、早いね?」と言った女に「おう」と成沢が応える。
そして続けて
「ねぇ、今日はどこ行くの?」
「んー? そりゃあ、やっぱ……俺んち?」
「えぇ! もーお?
ヤダー。せっかちなんだからリュウジはぁー」
ケラケラと笑い合う声に耳を塞ぎたくなった。
これ以上、バカな会話を聞いていても仕方がない。
「ヒロ、出よ?」
「…うん」
立ち上がった俺はヒロの前を歩いた。
成沢のいるテーブルの傍を通らないように、遠回りをしてレジへ向かった。