初恋の向こう側
振り上げた拳は、胸の前で止められた。
視線を落とすと、俺の腕を必死に押さえ見上げるヒロと目が合った。
そのまま引きずられるように店を出た俺だけど、釈然とできずにいたんだ。
「何で止めたんだよっ?」
高ぶった感情がヒロを責める。でも俺とは逆に冷静に答えたヒロ。
「あそこで殴ったって、何にも得しないでしょ?」
「だけどっ」
「ねぇ、梓真までカッとなってどうするの? そんなんじゃ困るよ。
無鉄砲なあたしの歯止めになってくれるのが梓真の役目……そうでしょ?」
そして笑顔を向けた。
「もうっ そんな顔しないの!
さ、嫌なことは早く忘れよ? 気を取り直して次は何処行こっかな~」
そんなヒロに手を引かれ歩き出した俺だけど、軽やかに歩を進めるヒロの隣で、不完全燃焼な思いを持て余すしかなかったんだ。
……あの日の俺と同じように。