初恋の向こう側
二年になって、まだ二週間程のある日。
放課後その男は、俺の席へ来るなり言ったんだ。
「オレ、小野崎 恭(おのざき・きょう)。
佐伯 梓真、ヨロシクな?」
面と向かって、しかも初めて話す相手に自分の名前をそんな風に言われるってのは結構ムカつくもんだ。
机に両手をついて、俺の顔を覗きこみながら小野崎は続けた。
「オマエのことは、高校に入る前から知ってた。このオレもガキの時からサッカーやってる身だし」
見ためは典型的なチャラ男。
俺の嫌いなタイプ。
「そんでもってオレは、今でも続けてる身だけどね?」
“今でも”を強調した小野崎。
……何が言いたいんだよ、こいつ?
「ついでに言わせてもらうと、佐伯 梓真っていうイケ好かない男にムカついてる身でもあるんだけどよ?」
薄く笑った顔が俺の神経を尖らせた。
何だよ、いきなり? 意味わかんねー。
突然現れて、まさかケンカ売ってんの?
真っ正面から睨む俺の視線を外して、小野崎がまた口を開く。
「ところで佐伯、オレの元カノって知ってる?」