初恋の向こう側

* * *


自宅近くの公園の傍まで来た時、俺は運転する担任に言った。


「先生、ここでいいよ」

「そうか? じゃあ気をつけてな」


古いセダンが遠ざかって行くのを見送ると、 先に歩きだしたヒロが振り返って言った。


「何ともなくてよかったじゃない?」


念のためと病院へ連れて行かれレントゲンに頭のCTまで撮られたが、軽い打撲程度で異常はなかった。


「まぁね」


ポツリと答えて、何となしに目を止めた。

紺色のハイソックスを纏ったヒロの脹ら脛が、左右交互に規則的に動いている。

その姿に疑問を感じて訊いた。


「ヒロ、いつ着替えたんだよ?」

「さっき病院のトイレで。
だって、ジャージのままじゃ恥ずかしいじゃない?」


球技大会の真っ最中だった。だから俺はジャージのままだ。


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