初恋の向こう側
それは、俺ん家が見える路地にさしかかった時で。
「あ」
ぽつりと呟き、思わず足を止めた。
「どうした?」
遅れて立ち止まったオサが、不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「いや、何でもない…」
動揺する心を押さえ静かに答えて、また歩きだす。
そして、その黒いステーションワゴンの脇を通って玄関の前に立った。
「なー、その車って椎名ん家の客かな?」
「……」
「なー、アズマ?」
「さあな」
短く言い放ち、握ったドアレバーを勢いよく引いた。