初恋の向こう側
軽く頭を下げて「どうも」と一応礼を言うと、「いいえ」って笑った彼女の口元から八重歯が覗いた。
童顔で小さくて、小動物みたいだなって思った。
制服を着てなかったら中学生に見えるな、あれは確実に ──
昨夜オサが俺ん家を出た直後に、愛莉から電話があったらしい。
俺が愛莉に連絡する前に、その事を伝えるメールがオサから入った。
なんで愛莉が遅くなったのかまでは聞かなかったけど、とにかくオサの機嫌が治ったのは間違いのない話で。
だけど俺の方は、頭ん中っていうか胸ん中がなんつーかモヤモヤしたまんま。
なんだろ。
この暑さのせいで頭がイカレちまったかな……。
いつの間にか俺の頭を占拠している、あの車。
気になったままスイッチを切り換えられなくて、何故か、あの黒いステーションワゴンに悩まされていたんだ。