初恋の向こう側
桃とチェンジしてそこにのっていたのは手作りクッキー。
ヒロのお手製クッキーは、そのまま店頭に並べられるくらいパーフェクトなビジュアルをしてるんだけど。
見た目に負けないくらい味だって完璧なのはよく知っている。
だけど、問題は……だ。
これを誰のために焼いたのか? というところにあるよな。
気にする程のことじゃないかもしれないけど。
……いやっ やっぱり気になる。
悶々としかけたところでヒロが言った。
「じゃあね梓真。オバさんにお礼伝えといてね」
「え」
驚きのあまりマヌケな声が出た。だってそうだろ。
『それじゃあ』ってなんで?
これでバイバイってこと?
なんか喋んないの?
そう思うのが普通だろ。
「わざわざ届けに来てくれてありがと」
とドアに手をかけるヒロ。
「おやすみ」
「お、おやすみ……」
戸惑う俺に構うことなく閉められたドア。カチャリと鍵の音まで聞こえた。
何これ。
この素っ気なさって ──
「マジ意味わかんねーって…」
ぽつんと一人取り残された俺の頬を冷たい風が撫でていった。