初恋の向こう側

「今日のシフトって下出さんでしたよね?」

訊ねると

「二人でコミケに行ってたんだよ。僕はちょっと寄っただけね」

と中森さんが答えて、その横で下出さんが小刻みに頭を動かした。


コミケ、ね……。

そういえば、この二人も神大の学生だったはず。

同じ大学生でも、あのイケメン家庭教師とは全然違うよなぁ。

っていうか寧ろ、同じ人間とは思えない ──


「佐伯くん、何か?」


並んだ二つの顔をボーっと眺めていたら、訝し気に中森さんが言った。


「え………い、いや……なんでもないっス」


答えたついでに溜め息が漏れた。

ヒロの家庭教師が彼等のような人種だったら、なんにも心配しなくていいんだろうけど。

まっ、それはそれで別の意味で心配になるかもな……。

下出さんの腕時計が鳴って三時になったのを知らせた。


「俺あがりますんで日誌の続きお願いします」


店を出た俺の体を、じっとりとした暑さがへばりつき包囲した。


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