初恋の向こう側


幼い頃、ヒロとよく遊びに来た公園。

バイトからの帰り道、歩きながらセミの声を聞いていた。


そのとき、すっかり見慣れてしまったあの車が、俺を抜き去っていった。

通り過ぎるときに見えたのは、助手席に座るヒロの姿。


俺達の家へいざなう路地へ入ると、ヒロを送ってきたあの車がUターンしていくところで。

家の前には運転手に笑顔で手を振るヒロ。


見せつけられたように感じるその光景に、ざわざわと何かが騒ぎだす。

胸の中を掻き毟られる ―― 錯覚じゃなく確かに感じた。


「よお」

ぶっきらぼうに声をかけると

「うん」

不機嫌そうにヒロが返した。


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