初恋の向こう側
何が言わなきゃ。
気をつかうような相手ならともかく。何故だか俺はヒロを前にそんなことを思った。
そんな焦りからか、妙なことを口走ってしまったんだ。
「家庭教師ってデートの相手もしてくれるんだ?」
言おうと思って言ったわけじゃない。気づくと口から出ていた。
しかも自分で驚くほど皮肉たっぷりな言い方で。
ちょっとだけ驚いたような顔をしたヒロは、すぐに眉間に皺を寄せた。
怒らせた ――
気がついたくせに歯止めが効かなくて。だって怒りを感じているのは俺も同じだったから。
でも何でいま俺は、こんなに憤っているんだろう……。
「神大の三年なんだって?
頭も良けりゃ顔もいいなんて申し分のない相手だよな」
自然と口が動く。
「なにが言いたいの?」
「別に」
「……。
そうだね、約束は守るし嘘はつかないしね」
抑えることのできない苛立ちが、余計な言葉をまたも吐かせる。
「もう付き合ってんだ?」
「それは違う」
喉もとに異物が痞えているように感じる。
居心地の悪さと気持ちの悪さ ―― 塊になってどんどん膨らんでいく。