初恋の向こう側



土曜の夜。

打ち上げ花火の音が、黒い空をふるわせる。

去年の夏はこの音を、哉子さんの部屋で聞いていたんだっけ。


周りを見れば家族連れとカップルだらけで、軽い溜め息が漏れそうになる。

今日はバイトも休みで、家にいたら耳にしたくない音を聞いてしまいそうだと思ったて出てきた。

それは、ヒロがカキョーの車のドアを閉める音。
二人が玄関前で話す笑い声……。

だから俺はたいして観たくもないくせに、空に広がる華を眺めに来ていた。


「それで茉紘はなんて?」


隣に座る愛莉が上を見上げたまま言った。


「なんてって……ただ行かないって言ってた」

「ふーん。
昨日話したらね、茉紘の態度がますます変になってたのよ。
梓真、なんかあったんじゃないの?」

「別に。なんにもないよ」


あのイケメン・カキョーのこと、愛莉にもあまり話してないのかな?

そこへ、焼きそばとたこ焼きを抱えたオサが戻ってきた。


< 194 / 380 >

この作品をシェア

pagetop