初恋の向こう側

「そうなんだ」


なんて応えが適当なのかは不明だけど、正直ピンとこない。

背が小さいってことぐらいしか印象に残ってないし、顔だってぼんやりとしか覚えていない。


「もう一年以上前からみたいなんだ。いつもバス停で佐伯のこと見てたって」

「バス停?」

「佐伯ってバイトしてるんだよね? その帰りに寄るバス停があるでしょ?」


一回だけあそこで会ったのは覚えている。

でも、それ以外で居合わせていたなんて全然気がつかなかった。


「前にも言ったけど、あいつすごい奥手だから。ただ離れたとこから見てただけみたいでさ。
だから俺、言ったんだ。今度会った時は自分の名前ぐらい言えって」

「ふーん。
で、鈴井は俺にどうしろと?」

「いやっ、別にどうして欲しいってわけじゃないんだけど。

ただ奥手で不器用なあいつを応援したいっていうか……幼なじみとして」


幼なじみとして、か……。

俺にも幼なじみって名の相手がいるけど。

俺は、こんなふうに応援できるだろうか?
幼なじみの恋を。


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