初恋の向こう側
掛け違えたボタン
特別なイベントもなく、つまらない十一月。
ただバイトに没頭する日々……なーんて言ったって、没頭できるような忙しさはここにはない。
近頃は特に、レジ前にボーっと座って暇を持て余し過ぎてる俺。
そんな変化のない静か過ぎる空間に、突如チリンッと客の来訪を知らせる鈴の音がした。
「いらっしゃいま ─」
……あれっ。
言いかけたが音はしたのに姿がない。
まっいいか。入りかけた誰かが止めて出て行ったんだろう。
と俺は、入り口方向に向けていた視線を戻した。
それにしても暇だ。暇すぎる……。
これで時給が発生してるんだから、楽すぎて逆に申し訳ないくらいだ。
だから文句の言いようもないんだけど。
売り物の中のめぼしい漫画も読み尽くしてしまったし。
そういや、前にヒロに頼まれて調達してった漫画の続きがまだあったな。
ヒロとはあれ以来、言葉を交わしていない。
『ただの家庭教師じゃなかったら』
そんな会話を交わした、あの時以来。