初恋の向こう側
本を片づけてレジの後ろの椅子に座ると、目の前にさっきの女の子、安西千尋が立っていた。
「あのー鈴井君、何か言ってました?」
「…何か?」
「はい、あたしのこと何か言ってませんでしたか?」
と訊かれても、な……。
言ってたことは言ってたけどさ。
まさか、君が俺のことを好き。だって聞いてるなんて言えるわけもないだろ。
「いや、特に言ってなかったけど」
「そうですか…」
彼女は、安心したようにも落胆したようにもどちらともとれる顔をした。
そこへ、チリン♪ と鈴の音と共に「おつかれでーす」と中森さんが入ってきた。