初恋の向こう側
そして迎えた放課後。
今日はオサと一緒じゃない。
弓道部の見学に行くオサに一緒に行こうって誘われたけど、今日の俺はそれどころじゃなかった。
とにかく早く帰ろう。それで冷静になろう……。
呪文みたいにブツブツ繰り返しながら廊下を歩き、玄関へ辿り着く。
そして、脱いだ上履きを下駄箱に入れようとした時。
「佐伯くん! 一緒に帰ろ?」
女子の声が俺を呼び止めた。
……誰?
聞き覚えのあるような、ないような……。
首を傾げ、ゆっくりと振り向くと。
「……ヒロ ─ 」
小さく呟き立ち尽くす俺に、ニッコリと口角を上げた小さな顔。
「懐かしいね? その呼ばれ方」
そこには彼女が立っていた。
椎名 茉紘(しいな・まひろ)、俺の幼なじみ。