初恋の向こう側
あの日、話そうとは思ったよ。っていうより話そうとしたんだ。
でもさ、ヒロが言ったんだ。
前は否定したくせに、“ただの家庭教師じゃない”って。
それで、意気込んでた気持ちも萎えてしまったんだ。
なんて言ったら、ちょっとおかしく聞こえるかな?
それじゃまるで俺がヒロのことを ──…… なんて有り得ないって。
正直言えば、あの時の感情の原因なんてわかんない。自分でもかなり理解不能。
ただあの一言で、ぶちのめされたみたいに大人しくなるしかなかったのは確かだった。
「間に誰か入るより、本人達で話した方がいいと思うの。
あたし前に言ったでしょ? 梓真と茉紘ってお互いのことをよくわかってないって。それだけじゃないよね。わかっていないのは自分自身の事もかも、ね?」
髪をかき上げた愛莉の肩先で黒髪が揺れる。
「愛莉様は大人だな」
「何よ、それ?」
呟くように溢した俺の言葉に、愛莉が小さく笑った。
カーテンを開けると、明かりの点ったヒロの部屋が見えた。
「なー、聞いてもいい?」
「なに?」
「どうして愛梨はオサと付き合おうって思ったの?」
唐突な俺の問いかけに愛梨は目を丸くした。